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 「一番行ってみたいところはどこですか?」
 これまでそんな質問をされたとき、私の脳裏に思い浮かぶいくつかの地名の中には、必ず「パミール高原」があった。

 古くから東西を行き交う旅人の前に立ちはだかり、シルクロードの最大の難所とされてきたところでもある。
 パミール高原を西側から越えてカシュガルへとやってきたマルコポーロも、「パミール高原の踏破には12日間を要し、その間は人家も見当たらないため、その分の食料を事前に調達して携帯しなければならなかった」のだという。さらには、標高があまりに高いため「炎が燃え上がらず、自炊に苦労した」との記述も東方見聞録の中に見ることができる。

 西安から列車に50時間揺られて到着したトルファンから、この新疆ウイグル自治区での旅が始まった。そして、クチャ、アトシュ、カシュガルと西に進んで来るにつれ、私の中で「少しずつ、あのパミール高原に近づいている」という感慨が強くなってきたものだった。

 カシュガルからパミール高原へと向かうには、パキスタン行きのバスに乗って、カラコルム・ハイウェイを行くことになる。
ウルムチ、クチャ、コルラ、イリ、ホータン …… 、新疆の各都市へのバスが発着するカシュガルのバスターミナルの中でも、パキスタンのススト行き(スストは国境を越えてパキスタン側に入ったところにある最初の街)のバス周辺だけは雰囲気が違う。
 乗客の多くは、仕事で新疆へやってきて国へと戻るパキスタンからの行商人で、買い付けた大量の荷物をバスの上の荷台に積み上げている。そして、国境を越えユーラシア大陸を横断して西へと向かう長期の旅人が数人。私は、そのバスに乗って、カシュガルから約200キロのカラクリ湖という湖のそばで途中下車させてもらう予定だ。

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 カシュガルをあとにして20分もたつと、バスの車窓からはビルの姿が消え、農道沿いに植林された背の高いポプラが並ぶ、典型的なウイグルの農村の光景が見られるようになる。
 やがて農村も姿を消し、少しずつ山岳道路の勾配がバスの座席の上でも実感できるようになる。決して一気に急な上り坂を行くわけではないが、車内へ流れてくる高原の風は、徐々に凍えるような冷気を帯びてきて、確実に標高があがっていることを実感させてくれる。

 カラクリ湖までの所要時間は約8時間。カラコルム・ハイウェイでは、いたる所で道路整備工事が行われており、バスは何度も本道を降りて工事区間を迂回する。
 工事の光景を何度も見ていると、いつの日か、パミール高原を横断するこの道路が完全に舗装される時が来るのかもしれない、とも思えてくる。何しろ、途方もない労力と時間を費やし、広大な荒地と砂漠を越えてカシュガルまで鉄道を敷設してきた中国だ。
 しかし道路整備工事とはいっても、ダンプトラックやパワーショベルなどがどの現場にもふんだんにあるわけではない。標高2000m、3000mを超える高地で、人がスコップで砂や砂利をすくってバケツに入れ、それを両手に持って運ぶといった地道な方法での工事が進められているのである。働いている人の多くは、近隣の省から出稼ぎでやってきた漢民族の人々なのだという。

 カラクリ湖までの道中、視界に入る風景の大半は荒涼としていて、灰色や褐色の荒地ばかりだといっていい。むき出しになった荒々しい岩肌。6000m、7000m級の山々から流れ出てくる大量の雪解け水。その流れは岩を砕き、混ざり合って灰色一色の大河となる。そんな風景は、人の存在など意にも解しない大自然の荒々しい主張のようにも、地球の原風景のようにも見える。けれどもその一方で、古くからこの難所を踏破して洋の東西を行き交ってきた多くの旅人の存在にも思いをはせずにはいられない。
 私自身はと言えば、標高3600mのカラクリ湖に到着後、生まれて初めての高山病に苦しめられることになる。

Vol.44へ続く)

>> 旅のウイグル語 Vol.43
 今回は、自然に関連する単語です。バスの中で風景を指差しながら現地の人と話をするときなど、知っていると案外コミュニケーションのきっかけになる単語です。

タグダルヤキョル
砂漠クムルックデレフギュル

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>> 秋野深(あきの・じん)について
 1970年生まれ。福岡県出身。会社員生活を経て、現在はフリーランスの写真家・紀行作家。アメリカとアジア(シルクロード、イスラム圏、東南アジア)を主なフィールドとして、自然風景、建築物、人々の生活や文化を撮り続け、雑誌やウェブでは旅のフォトエッセイの連載も手掛けている。
 2006年より、アメリカ・インディアナ大学研究所を中心とする国際的な芸術と科学の研究・展示プロジェクト「Accuracy & Aesthetics」のオフィシャルフォトグラファーとして、5年にわたって世界5大陸の10都市を訪問・撮影予定。
 ニューヨークアートギャラリー「Renee Fotouhi Fine Art」への作品登録、ナショナルジオグラフィック・WWF(世界自然保護基金)の共同制作ウェブサイトへの写真提供をはじめ、作品は海外の媒体でも紹介されている。
 『イラン・思考の旅』で、第1回文学メルマ新人賞紀行文部門大賞を受賞。アメリカで開催された「インターナショナル・フォトグラフィー・アワード」の2004、2005のプロフェッショナル・ネイチャー/ランドスケープ部門で「オーナブルメンション」賞を2年連続受賞。
 ⇒ 活動や作品の詳細については、Jin Akino Photography をご覧ください。
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