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 大都市カシュガルのなかでも、ウイグル族の文化の香りが色濃く残っているのは、エティガールモスクという新疆ウイグル自治区最大のモスクの周辺だ。そこから500mほど東に向かったところには、大バザールが週に1度開催されるエリアがあって、その日は郊外からも押し寄せる車やロバ車や人の波が、バザールへと向かうことになる。
 そのエティガールモスクとバザールの間には、日干しレンガが積み上げられた高い塀に挟まれ、狭い路地がまるで迷路のように張り巡らされた、古いウイグル族居住区が広がっている。

 迷路というのは本当に大袈裟ではなく、路地は縦横無尽に入り組み、ほとんどの壁や塀は薄い砂色の日干しレンガでできている。そのため、どこを歩いていても視界に入ってくる路地の様子や色彩が非常に似通っていて、簡単に方向感覚を失ってしまう。

 そんな時に道案内役を買って出てくれるのが、路地で遊ぶ多くの子供たちだ。
 ウイグル族をはじめとする少数民族については、一人っ子政策が適用されているわけではなく、街に住むウイグル族の場合は2人まで子供を持つことが許されている。ちなみに農村のウイグル族は3人までなのだという。
 そうした事情もあって、漢民族の居住区ではないところを歩いていると、子供の数の多さが目立つ。旅をする私も、必然的に多くの子供に出会うことになる。

 ウイグル族居住区のその迷路のような路地を歩いている時は、ことさら多くの子供たちが遊ぶ姿を目にし、私は彼らと時には一緒に遊び、また一緒に路地を歩き回ったりしたものだった。

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 子供たちが遊ぶ姿を見ていて、ふと、彼らの年齢層が実に様々であることに気がついた。下は幼稚園児くらいの年齢から、上は中学生、小学校の高学年あたりまでだろうか。子供の数が多いので、その間の年齢の子もまんべんなくいて、みんなで遊んでいる様子なのである。
 一瞬、私にはその光景が珍しく見えたのだけれど、しばらくして、私自身が幼稚園児の時もそうだったことを思い出した。
 幼い頃、私が近所の子供たちの輪に入って遊ぶ時、その仲間内での最年長はたしか中学1年生だった。もっとも、年齢差があり過ぎて、私とその人が2人で遊ぶということはなかったけれど、子供が大勢集まって何かをしようとすると、その人がリーダーシップをとっていた。最年少に近かった私は必死に小学生や中学生の人たちについていって遊んでいた。

 ウイグル族の子供たちを見ながら、幼稚園児だった当時の私からはとてつもなく大人びて見えたその中学1年生のお兄さんのことを久々に思い出して、路地の片隅で私は懐かしい思いに浸っていた。
 ところが、今度はふと、逆に自分が中学生になった時のことを思い返してみた。中学生の私は、近所に住んでいた幼稚園児と日常的に一緒に遊んでいただろうか、と。
 ほとんど記憶を辿るまでもなかった。…… そんな過ごし方はしていなかったはずだ。

 不思議なことを思い出したものだと懐かしさに駆られる一方で、それは少しばかり愕然とするような事実でもあった。幼稚園児の頃には中学生と遊んだのに、中学生の時は幼稚園児と遊んでいない、という事実。さらに、自分の過去をそういう視点で振り返ったことがこれまで一度もなかったという事実。

 記憶を簡単に辿れる部分については、事あるごとに頭の中で反芻したり、何かの機会に人に話したりするものかもしれない。けれど、自分が全く認識していないところについては、一体どれだけ多くのことを忘れ、あるいは思い出すこともなく生きているのだろう、とも思った。

 こんなことを考える場所が、別段、ウイグル自治区やカシュガルである必要はないだろう。ただ、これまで一度も思い出したことがないこと、考えたことがないことを、カシュガルの細い細い路地で突然考えてしまうというのは、とても不思議な気がするものだ。
 もし、その日に思い起こすことがなければ、もしかしたら一生考えることがなかったのかもしれない。そう思うと、なんだかとても充実した1日を過ごしたような気持ちにもなったことを覚えている。
 それは、自力では開けることのできない頭や心の中の引出しが、旅のなかで目にしたものによって開けられたことに対する、小さな喜びでもあったのかもしれない。



Vol.39へ続く)

>> 旅のウイグル語 Vol.38
 今回は、年齢を尋ねる時に使う表現です。数字の大きさを尋ねる「いくつ?」は「カンチェ?」と言いますが、これに「年齢」を意味する「ヤシ」を付けて使います。

何歳ですか?カンチェ ヤシ?

「〜歳」と答える時は、「数字」+「ヤシ」という使い方をします。
5歳ベシ ヤシ10歳オン ヤシ

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『NEUTRAL』発刊第6号(白夜書房)に作品掲載(12月26日発売)

第6号の特集は「水と地球 〜水こそすべて〜」です。秋野の作品(写真・文)は以下のページに掲載されています。

P93-P95
「水が生み出す奇跡の風景」
ヨセミテ国立公園(アメリカ/カリフォルニア州)、アンテロープキャニオン(アメリカ/アリゾナ州)、ゴブリンバレー州立公園(アメリカ/ユタ州)、太魯閣峡谷(台湾)、他

P116-P121
「海を見た人」
(中国・新疆ウイグル自治区・パミール高原)

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>> 秋野深(あきの・じん)について
 1970年生まれ。福岡県出身。会社員生活を経て、現在はフリーランスの写真家・紀行作家。アメリカとアジア(シルクロード、イスラム圏、東南アジア)を主なフィールドとして、自然風景、建築物、人々の生活や文化を撮り続け、雑誌やウェブでは旅のフォトエッセイの連載も手掛けている。
 2006年より、アメリカ・インディアナ大学研究所を中心とする国際的な芸術と科学の研究・展示プロジェクト「Accuracy & Aesthetics」のオフィシャルフォトグラファーとして、5年にわたって世界5大陸の10都市を訪問・撮影予定。
 ニューヨークアートギャラリー「Renee Fotouhi Fine Art」への作品登録、ナショナルジオグラフィック・WWF(世界自然保護基金)の共同制作ウェブサイトへの写真提供をはじめ、作品は海外の媒体でも紹介されている。
 『イラン・思考の旅』で、第1回文学メルマ新人賞紀行文部門大賞を受賞。アメリカで開催された「インターナショナル・フォトグラフィー・アワード」の2004、2005のプロフェッショナル・ネイチャー/ランドスケープ部門で「オーナブルメンション」賞を2年連続受賞。
 ⇒ 活動や作品の詳細については、Jin Akino Photography をご覧ください。
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