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 私は、トルファン中心部から南のほうへと歩いてみた。
 街の中心を東西に横切る大通りの南側には、ほとんどビルのないエリアが広がっていて、そこからがウイグル族の農村部になっている。そして市街地が農村へと景色が様変わりするあたりに、ウイグル族のバザールがある。市街地から歩いてくると、そこで、すれ違う人の民族構成比が突然変わる。
 大通りの北側を歩いていたときは、漢民族とウイグル族の比率は半々くらいだったような気がしていたが、バザールに足を踏み入れた途端に、かなり探さないと見つからないほどに漢民族の姿は見当たらなくなった。
 さらにバザールを抜けたところにある農村部に近い通りでは、自動車よりもロバ車の数が目立つようになる。
 歩道には、数える気にもならないほど大量のスイカとハミウリが無造作に積み上げられ、それが何10メートルも続いている。一体どうやって運んできたのだろうかと不思議に思うほどの数だ。

 9月は収穫の季節。スイカやハミウリに負けず劣らず道端の店で目立っているのがブドウだ。
 トルファンは、ブドウの名産地としてその名を中国全土に知られている。ディリシャティも、夏の旅行シーズン以外は、ブドウ畑での仕事に精を出すと言っていた。

 中国の6分の1を占める広大な新疆ウイグル自治区は、万年雪を頂く7000メートル級の山脈から世界で2番目に標高の低いトルファン盆地まで、実に変化に富む大自然に溢れている。当然、農作物も地域によって特色があり、ハミを代表するのがハミウリなら、ここトルファンを代表するのがブドウとういうわけだ。
 道路脇に並べられているブドウを見てみると、日本で見るマスカットのような明るい黄緑色で、一粒一粒の大きさはマスカットより若干小ぶり。トルファンの強い陽射しが、ブドウの薄皮を通って芳醇な実をエメラルドグリーン色に輝かせている。
 道路脇やロバ車の荷台に、美しく透明感のあるブドウがあふれんばかりに並べられ、積み上げられたその光景は、無数の宝石をちりばめたようで、道行く人の目を楽しませてくれる。そしてブドウを積んだロバ車の荷台が揺れると、ブドウの房や一粒一粒の実もわずかに揺れ、甘い香りが乾いた風に乗ってあたりの空気を包んでくれる。

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 さらに南へと向かい農村部に入ると、未舗装の道の上をバザールへと向かうロバ車と頻繁にすれ違うようになる。
 ポプラ並木でトンネル状に覆われ、真っ直ぐに伸びる農道の遠くのほうから近づいてくるロバ車を見ていると、ロバの一歩一歩が小さな砂煙を上げ、その後に荷台の車輪がさらに大きな砂煙を舞い上げる。ロバ車が通り過ぎて、砂煙がおさまると、農道の奥に見える民家やポプラ並木が徐々にくっきりと見えてくるのだけれど、すぐに次のロバ車がやってきて、また視界には砂煙のフィルターがかかる。たくさんのロバ車が行き交う朝と夕方の時間帯には、農道ではそんな光景が繰り返されていた。

 もちろん、タクラマカン砂漠から飛来して堆積した粒子の細かい砂塵を、頭から被ったり吸い込んだりしたくはなかったけれど、視界が霧に覆われたような光景は、時に、しばらく見とれてしまうほどに幻想的でもあった。
 だからだろうか、私はその後ウイグル自治区の様々な街を訪れたが、どの街でも郊外の農村の道を、時間をかけてずいぶん歩いたものだった。

Vol.15へ続く)

>> 旅のウイグル語 Vol.14
 「〜ニメ?」(=〜は何ですか?)以外に、旅のなかで使えると便利な疑問詞が「カヤルデ?」(=〜はどこですか?)です。「名詞(場所)+カヤルデ」で、「〜はどこですか?」という文章になります。
 私の場合、特に頻繁に口にしたのは、「トイレはどこですか?」と「バザールはどこですか?」です。バザールはだいたいどの街でも街の中心部にあるので、道に迷ったときはバザールの方向を確認するようにしていました。

ウブルニ
(トイレは)
カヤルデ?
(どこ)
(ですか?)
バザール
(バザールは)
カヤルデ?
(どこ)
(です)

>> お知らせ(秋野深の作品掲載や活動など)
『NEUTRAL』(白夜書房)第3号に作品掲載
(3月26日発売)

特集:「月をめぐる冒険」の中の以下のページで写真と文章が掲載されています。
・「世界の"月の谷"をめぐる」
 P52/ヨルダンの砂漠、ワディ・ラム
・「月が生み出す奇跡の風景」
 P128/パリアキャニオン(アリゾナ州)
     イエローストーン(ワイオミング州)
     デスバレー(カリフォルニア州)
 P129/ブライスキャニオン(ユタ州)

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>> 秋野深(あきの・じん)について
 1970年生まれ。福岡県出身。会社員生活を経て、現在はフリーランスの写真家・紀行作家。アメリカとアジアを主なフィールドとして、自然風景、建築物、人々の生活や文化を撮り続け、雑誌やウェブでは旅のフォトエッセイの連載も手掛けている。
 2005年より、約5年間にわたる国際的な芸術と科学の研究・展示プロジェクト「Accuracy & Aesthetics」のオフィシャルフォトグラファーとして、世界5大陸の10都市を訪問・撮影予定。
 ニューヨークアートギャラリー「Renee Fotouhi Fine Art」への作品登録、ナショナルジオグラフィック・WWF(世界自然保護基金)の共同制作ウェブサイトへの写真提供をはじめ、作品は海外の媒体でも紹介されている。
 『イラン・思考の旅』で、第1回文学メルマ新人賞紀行文部門大賞を受賞。アメリカで開催された「インターナショナル・フォトグラフィー・アワード2004」のプロフェッショナル・ネイチャー/ランドスケープ部門で「オーナブルメンション」賞を受賞。
 ⇒ 活動や作品の詳細については、Jin Akino Photography をご覧ください。
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