
門の前にとまった車の後部座席のドアが開き、鮮やかな水色のドレスを着た女性が車から降りてきた。てっきりその女性が新婦なのだと思っていたら、新婦はその後に抱えられるようにして降りてきた女性だった。肩までかかる黒いスカーフを頭から被っていて、顔は全く見えなかった。
しかし、新婦を見ていて、その服装以上に、私には驚かずにはいられないことがあった。驚くと言うよりも、あっけにとられてしまったという表現が正確かもしれない。
新婦は、一人では立っていられないほどによろめいていて、それは足元がおぼつかないという程度のものではなかった。その上彼女は、村中に響き渡るのではないかというほどの大声で泣き叫んでいたのである。
両脇を抱えられたまま、彼女は右に左に倒れるように歩き、誤解を恐れずに言えば、それは半狂乱状態と言っても過言ではない様だった。泣き叫び方も尋常ではなく、その光景を写真に撮りながら間近に見ている私には、もしかしたらこれは演技なのではないかと思えてしまうほどだった。
一体、どういうことなのだろう。
私は周囲の人たちの表情を確認してみたのだけれど、驚いている様子の人はおらず、静かに見守っているといった感じだ。怪訝そうな顔をしているのは、小さな子どもと私くらいだ。
結婚式の時の新婦は、みんなここまで泣き叫ぶものなのだろうか。
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その後、いろいろな人に話を聞いてみて、ウイグル族の結婚式では、だいたい新婦は激しく泣くものなのだということがわかってきた。
新婦の涙や半狂乱状態の様は、私が想像したような演技などと言うものではなく、新婦がこれまで生まれ育った家や家庭を離れる寂しさや、新しい家で新しい家族と共に暮らす不安から来るものなのだという。
きっと、私には想像もできないほど、家族の結びつきというものが強いのだろう。新婦が感じている寂しさや不安というものは、私たちが同じ言葉で表現する感情とは別次元のものなのかもしれない。そんなふうに思えるほど、新婦の泣き叫ぶ様子は私には強烈なものだったし、またそうでなければ、私が目の当たりにした光景は説明がつかないようなものだったと言ってもいい。
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新婦が両脇を抱えられたまま家の中へと入っていくので、私もついていこうとすると、今度はビデオカメラマンや周囲にいた男性に笑顔で止められてしまった。
「俺たちはこっちだよ」というので、私は通りの向かい側の、新婦の親類の家にお邪魔することになった。どうやらこれから昼食の時間らしく、集まった人たちは男女別々に食事をするのだそうだ。
腕時計を見ると12時半。確かにお昼時だ。
とにかく自分の目の前でめまぐるしくいろんなことが起こるので、それについて行くのに精一杯になっていて時間がたつのも本当に忘れてしまっていた。
新婦の親類の家の客間らしき広い部屋に通されると、そこにはすでに15人ほど男性が長いテーブルを囲むソファーに座っていた。部屋に集まったのは全員新郎の友人で、テーブルの上はポロとナンとチャイで一杯になっていた。
ここでは、私はソファーに座るなり、お酒をすすめられることになった。
透明の酒がなみなみと注がれた、日本で言えばラーメンどんぶりのような大きさの器が、私に手渡される。私の左斜め前に座っていた新郎のアルシーさんに視線を向けると、「遠慮しないで、どんどん飲んでくださいよ」という表情で私に穏やかな笑顔を見せてくれた。
どんぶりに鼻を近づけてみて、私は思わず自分の手をとめてしまった。
これは相当なアルコール度数だ。口をつける前にどんな酒なのか確認しようと思って、ビンのラベルを見てみると、ラベルの文字は漢字で書かれていて、酒の名前は「白粮特曲」、原料は小麦、アルコール度数は42度。
さすがに酒に弱い人や二日酔いが気になる人は飲まない酒なのだろうけど、私はというと、好んで自分から飲むことはしないものの、酒にはなぜか昔からめっぽう強い体質で、飲め飲めと言われるとついつい飲んでしまいがちだ。
結局この時も、散々すすめられて、どんぶり3杯飲むことになってしまった。さすがに42度の酒をそれだけ飲んでしまってはまずいのではないかと思ったが、その後何事もなく、自分が酒に強い体質で良かったと改めて痛感したものだった。
(Vol.10へ続く)
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