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 踊りを取り囲む人垣の脇を通って、私は家の中の広い居間へと通された。新郎の親類らしき3、4人の男性もその居間へ入ってきて、私は彼らと一緒に輪になって床に座った。

 部屋には家具がひとつとしてなく、そこに人が集まる様子は、私にウズベキスタンやイランを訪れて民家に招かれた時のことを思い出させてくれる。
 元々遊牧の文化を持つ人々は、家畜の餌を求めて頻繁に移動を繰り返すために家具をできるだけ持たない習慣があって、定住生活をするようになってからもそうした生活空間を維持しているのだと耳にしたことがある。ウズベキスタンでもイランでも、本当に物が何ひとつ置かれていない部屋をよく目にしたものだった。そして客人はその部屋へ通され、家族もそこで食事をするのである。

 私の目の前に並べられた料理はポロ。そしてナンが添えられている。ウイグル族の人々の料理を見ても、やはり私はウズベキスタンを思い出さずにはいられない。
 ポロは、日本で言えばピラフのようなものだ。主な具はみじん切りにしたニンジンとタマネギ。そして羊の肉。味は塩とコショウがベースで、日本で食べるピラフよりは少々油っこさがある。
 ナンは円盤状でかなり厚手だ。日本の食パンのようにフワフワした軟らかい食感とはまるで違い、歯ごたえがある。
 ご飯とナンを一緒に出す感覚も、ウズベキスタンやイランと変わらないようだ。米かパンかという選択をする日本人には馴染みのない食べ方だが、目の前でウイグル族の人の食べ方を見ていると、ポロを口に運んではナンをちぎって食べ、それを繰り返している。
 ポロは、日本のピラフよりは油っこいものの、ウズベキスタンで食べたものほどは油っこさがないような気もする。ニンジンの色が赤というよりは黄色味がかっていて色合いもきれいで、何よりおいしい。

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 私が少しでも箸を休めようものなら、「さあさあ、遠慮しないでどんどん食べてください」と促され、チャイ(お茶)を一口飲めば、すぐに注ぎ足される。
 私の反応にみんな興味津々といった感じで、一口食べるごとに、私は周囲の人に顔をのぞき込まれては、「ヤクシ?ヤクシ?」と質問攻めにあった。
 ウイグル語で「ヤクシミシズ?」は「元気ですか?」という意味だから、「ヤクシ」はきっとgoodの意味なのだろう。その時、ウイグル語はまだ「ヤクシミシズ?」「ラフマットゥ(=ありがとう)」「ヤポンルック(=日本人)」しか覚えていなかった私は、そう納得して、「ヤクシ、ヤクシ」と笑顔でうなずいてみせていた。
 その場には日本語はもちろん、英語を話せる人も全くいなかったので、コミュニケーションは大変だった。それでも私を囲んだ数人の男性との、ほぼ100%ジェスチャーの会話の中でいくつかの単語がわかるようになり、私はその全てをノートに書き取っていった。

 私が持っていたウイグル語と日本語のシンプルな自作の対訳表も、彼らにとってかなり興味深いものだったようで、その場の全員が回し読みしていた。ただ、私が用意してきた対訳表は、ウイグル文字で書かれたものではなく、「元気ですか?= yakzimsiz ヤクシミシズ」というふうにウイグル語の発音をアルファベットとカタカナで表記したものだった。対訳表を手にした人の半分くらいは「自分はアルファベットが読めない」と言って首を横に振っていたけれど、彼らが対訳表を指差しては、何度も「ヤポンチェ」「ウイグルチェ」と繰り返すので、それぞれ「日本語」「ウイグル語」を意味する言葉だと言うことは理解できた。

 たしか、ウズベキスタンでも「〜語」は「〜チェ」とか「〜チャ」とか言っていたような気がする。「ラフマットゥ(=ありがとう)」はウイグル語もウズベク語も同じだし、言葉の面でも共通点は多いのかもしれない。
 私は、ウズベキスタンで現地の人が英語のことを「アングレッチャ」というふうに発音していたことをふと思い出し、試しにノートの端に「ABC」と書いてそれを指差し、ウイグル族の人たちに「アングレッチャ、アングレッチャ」と言ってみた。すると「アングレッチャ」では通じなかったが、「それはイングリズチェだ」と教えてくれた。

 いろいろな人が入れ替わり立ち替わり居間にやってきては、私を見つけて笑顔で手を振ってくれる。「今日は日本人が来てるぞ」なんてあちこちで言われてしまっているのだろうか。まるで私が主賓みたいになってしまっていてかえってまずいのではないか、とまた少し心配になってくる。
 ところが、私がそんなことを考えながら、周囲を見回して様子をうかがったり、箸を休めたりしようものなら、「さあさあ、ポロをもっと食べてください。ナンもまだたくさんありますよ。チャイをもう一杯いかがですか。どうぞ、どうぞ、遠慮なんかしないで」とすかさず始まってしまうのである。

Vol.7へ続く)

>> 旅のウイグル語 Vol.6
 先週は「私は」「あなたは」などの主格の表現、先々週は「日本人」「ウイグル族」「漢民族」などの表現を紹介しました。ウイグル語では、これらの単語だけで文章ができてしまいます。

 新疆ウイグル自治区を旅していると、現地の人とのコミュニケーションの一番最初は、自分が日本人であることを伝え、そして相手は何族なのかを確認するところから始まります。相手も外見だけではすぐに日本人だとわかってくれない場合があるので、自分が日本人であることを最初に伝えた方がコミュニケーションがとりやすくなると思います。

メン
(私は)
ヤポンルック
(日本人)
(です)
シズ
(あなたは)
ウイグル
(ウイグル族)
(です)

(彼/彼女は)
ハンズー
(漢民族)
(です)

 ご覧の通り、「です」にあたる単語が特に必要なく、とてもシンプルです。

>> お知らせ(秋野深の作品掲載や活動など)
『中国語ジャーナル』(株式会社アルク)
2005年3月号に作品掲載

 2月9日発売の『中国語ジャーナル』の巻頭「チャイナ・グラフィティ」に、タクラマカン砂漠の南に位置するオアシスの街ホータンを紹介する写真とショートエッセイが掲載されました。
 書店の「語学テキスト」コーナーでご覧いただけます。

>> デスクトップにシルクロードの壁紙作品集を!
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>> 秋野深(あきの・じん)について
 1970年生まれ。福岡県出身。会社員生活を経て、現在はフリーランスの写真家・紀行作家。アメリカとアジアを主なフィールドとして、自然風景、建築物、人々の生活や文化を撮り続け、雑誌やウェブでは旅のフォトエッセイの連載も手掛けている。
 ニューヨークアートギャラリー「Renee Fotouhi Fine Art」への作品登録、ナショナルジオグラフィック・WWF(世界自然保護基金)の共同制作ウェブサイトへの写真提供をはじめ、作品は海外の媒体でも紹介されている。
 『イラン・思考の旅』で、第1回文学メルマ新人賞紀行文部門大賞を受賞。アメリカで開催された「インターナショナル・フォトグラフィー・アワード2004」のプロフェッショナル・ネイチャー/ランドスケープ部門で「オーナブルメンション」賞を受賞。
 ⇒ 活動や作品の詳細については、Jin Akino Photography をご覧ください。
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